電力株が変身するとき
スポンサーリンク電気・ガス株がそろって安値をつけている。9月30日は中部電力が4ヶ月ぶり、関西電力は8ヶ月ぶりの安値まで売られた。大阪ガス、東邦ガスも年初来安値を更新した。総崩れの震源となった東京電力は連日の安値更新で今年の最安値を2026円まで切り下げた。2002年12月のバブル後最安値2005円を割り込む可能性も低くないだろう。
東京電力の大幅安は5500億円規模の公募増資(PDF)を実施し発行済株式数が最大18%超増加、1株利益の希薄化が嫌気されたことを要因とする。東京電力では公募増資の目的を、環境負荷の低い原子力発電と最新鋭火力発電への投資、ならびに成長事業への投資としている。 成長事業への投資は9月13日に発表した「中長期成長宣言 2020ビジョン」に沿ったものになるのだろう。調達資金の半額は、さっそく米サウステキサスプロジェクト原子力発電所の増設計画への参画、豪ウィートストーンLNGの権益取得に充当するとしている。9月13日付の日本経済新聞「東電、10年間で海外投資1兆円 米中印で発電事業」によると、東京電力の海外発電事業への投資額は「累計で1千億円程度だった」といい、今後実施する1兆円という海外投資額がいかに巨額であるか分かる。 これらの投資資金を事業で得た資金のみでまかなってくれたならば、投資家にとっては素晴らしい話だったがそうはいかなかったようだ。東京電力株は公募増資発表前の時点で2300円前後と、1990年のバブル崩壊以降の最安値圏内にあった。公募増資を行うにしてももう少しましなタイミングはなかったのだろうかと思わないでもない。 東京電力の海外市場で成長を目指す方針は成功するだろうか。 もとより、人口減が続く日本国内に閉じこもっていては業績の成長はおろか、維持すらも難しいことは明らかだ。電力に限らず、水道や鉄道など、日本企業のインフラ維持・運用能力で海外市場を切り拓くべきとの声は大きく、東京電力の動きもそうした流れに沿ったものだ。 問題は、インフラ事業の海外進出が決して容易ではない点にある。新幹線輸出は実行に移され長いが、中国への輸出は技術流出という苦い結果に終わり、逆転で採用された台湾新幹線も成功と呼べるかは微妙な状況だ。2009年12月に、UAEでの原子力発電所建設受注で韓国企業に敗れたことは記憶に新しい。東京電力は日本国内においてこそ、圧倒的な政治力と発言力を誇るが、しかしそれは日本国外で通じるものではない。東京電力の海外進出が順調に行くかどうかは予想しがたい。 東京電力の公募増資は1981年以来、29年ぶりとなる。当時と今では、日本のおかれた状況は全く異なっている。1981年の日本は、1ドル=200円台の安い通貨に支えられ高い輸出競争力を持ち、国内には工場が林立していた。団塊世代は30代半ばで、団塊ジュニアは小学生に上がった頃。少子化は始まりつつあったが、人口ピラミッドは現在のようないびつな形にはなっていなかった。 2010年の日本は人口が減少に向かい、国内から工場はどんどん消えている。電気の使用者が減り続ければ、安定事業と言われる電力会社であっても、業績の維持はいずれ難しくなるだろう。実際、東京電力の売上高は10年以上にわたって5兆円台で推移し、増加も減少もしていない。今後の国内売上高は減少に向かう可能性が高く、よって、海外進出に成功しなければ、業績は減収減益傾向が鮮明になるだろう。 海外市場で成長を目指す方針が成功した場合は。 海外事業が伸びたところで、国内事業の縮小を補い、全社規模では現在の水準を維持するにとどまる可能性もある。この場合、今回の増資により株式数が増加した分、1株利益が希薄化したという結果だけが残る。約20%の希薄化であり、60円の配当が50円に引き下げられるというのが単純な予想となるだろう。 見事業績を伸ばすことが出来たならば、現在の2000円割れ目前の株価が買い場だったということになる。結果がわかるのは早くて数年先のことだ。 日本が姿を変えるのにあわせ、電力会社も変わらざるをえない。東京電力は海外での成長を目指す方針を採用した。安定株の代名詞であった東京電力株も、その位置付けは変化するだろう。利益が伸びずに株式数だけが増えたクソ株に変身するか、これまで通り投資家に信頼される存在であり続けるか、この公募増資はその分かれ道となるだろう。
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