写真集「サハラ、砂漠の画廊―タッシリ・ナジェール古代岩壁画」
スポンサーリンク「サハラ、砂漠の画廊」という本を買った。作者は野町和嘉氏。サハラ砂漠にある世界遺産タッシリ・ナジェールの写真集だ。
タッシリ・ナジェールはアルジェリア南東部の山脈。洞窟壁画で知られる。
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今では砂漠の中の、赤茶けた岩肌の広がる台地となっているが、本書によると、周辺の平地が砂漠化した後も、台地上では雨が降り、比較的豊かな自然が残っていたのだという。今でも川沿いには、樹齢2000年に及ぶ固有種のサハラ糸杉が自生しているそうだ。
この台地にある洞窟へ、人々は紀元前約7000年頃から8000年にわたって絵を描いてきた。本書はこの渓谷と洞窟壁画の写真を豊富に収録している。
1996年の米アカデミー賞作品賞に輝いた映画「イングリッシュ・ペイシェント」の結末近くで、洞窟壁画が重要な意味を持つ場面がある。このとき映るのがタッシリ・ナジェールの洞窟壁画だ。
「イングリッシュ・ペイシェント」は第2次世界大戦中のサハラ砂漠を舞台にした作品で、美しい映画だった。この映画の中で出てくるタッシリ・ナジェールの洞窟壁画は、映画の素晴らしさと相まって強い印象を残す。イングリッシュ・ペイシェントで登場する「泳ぐ人」が描かれた洞窟も、本書には収められている。
表現の歴史を遡っていくと、やがて有史以前、人類がまだ文字を持つ前の時代にたどり着く。土偶や洞窟壁画がそれで、彫刻は土偶の、絵画は洞窟壁画の直系の子孫だ。すべての絵描きは人類が文字を持たなかった時代、洞窟の壁に絵を描いた人々の末裔といえるだろう。
洞窟壁画の多くは、実際に目にすることは簡単ではない。タッシリ・ナジェールは気楽に訪れるのは難しい僻地だ。アルタミラ洞窟やラスコー洞窟の壁画は一般には非公開だ。そういった気楽には見ることのできない壁画を美しい写真で見せてくれる本書のような写真集の価値は高い。